elles@centrepompidou

 


写真クレジット: elles@centrepompidou

10年以上前に初めて訪ねたパリで刺激的な展示会を観た。その時に興奮して書いた記事をここで復刻しよう。

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ポンピドゥー・センター内にある国立近代美術館のelles@centrepompidou (彼女たち@centrepompidou)で、美術館のコレクションの中から選ばれた女性アーティスト200人の500作品が一挙に展示された特別展だ。20世紀初めから現在までの女性アーティストの作品を網羅し、国立美術館の展示会としては最大規模、世界でも初めてとのことだ、という。3年以上もかけてこの展示会を準備したキューレーターは、同センターのカミーユ・モリノー。


実は、こんな珍しい展示会があるのも知らず、広い国立近代美術館内をウロウロしているうちに偶然見つけた。気が付くと「ゲリラ・ガール」ポスターの前にいて、思わずニタリ。見回せば、女性アーティストの作品群のまっただ中にいたのだ。

 

まず目を引いたのが、シュザンヌ・ヴァラドンの『青い部屋』(1923年)、この展示会の中では比較的古い時代を代表した作品。これまで幾度も西洋絵画に描かれてきた女性の構図だが、その同じ構図を使って描いた新時代の女の姿。「スゴっ」と圧倒される作品だ。ヴァラドン印象派の画家たちのモデル出身で、ユトリロの母。晩年になって息子より若い男に恋をして…なんて奔放な生き方を貫いた人だ。


通路の目立つ位置に置かれた、ニキ・ド・サンファルの彫刻『花嫁』(1963年)も際立っていた。胸の辺りがゴチャゴチャしていて、幸せそうにも美しくも見えない花嫁で、直感的に浮かんだ言葉は「結婚の幻想」。サンファルは同じ年に出産、娼婦、魔女など、女をテーマにした作品を制作、その後豊かな色彩と躍動感のある『ナナ』シリーズや『射撃絵画』で世界に知られるようになった人。那須高原に「ニキ美術館」がある。

女性のモノクロの顔写真の上下に"Your Body is a Battleground" (「あなたの身体は戦場だ」の意味、1989年)と赤い帯に白地の大きなタイプ文字が描かれたバーバラ・クルーガーの一連の写真も強烈だった。一目で彼女のメッセージが伝わるストレートでインパクトのある作品。アメリカ人でコピーライターをしていた彼女は「言葉の魔術師」と呼ばれているとか。

その他、画面左側に60年代風の化粧をした女性モデルのグラビア写真とその右側に化粧落としに使われた汚れたコットンやティシューが無造作に置かれたミックスメディアの連作や、顔を覆う黒いベールに穴を空ける女性を映したビデオアートなど、名前は思い出せないが一見してアーティストの意図が伝わるウイットと風刺精神に富んだ作品の数々に目を奪われた。

一方、日本の前衛の草分け的存在である田中敦子の電球と管球が点滅する『電気服』や、死んだスズメにピンク色のニットを着せたフランスのアネット・メサジェの一連の作品など前衛らしい作品も多く展示され、目がグルグル。前衛アートは良く分からないが、「何だろう?」と首を捻りながら観るのも楽しかった。

女は文学や詩、歌や踊り、ファッションやクラフト、料理などを通じて常に何かを表現してきたと思うが、ビジュアルアートに限ると20世紀は女性アーティストの黎明期だったのではないだろうか。女たちが新しい表現手段を得て、手探りでさまざまな表現に自己を託していった100年間をこの展示会を通して振り返る感覚があった。

全体を通した印象は、女の性抑圧や美の幻想を撃つフェミニスト・アートと呼べるような作品が多かったこと。20世紀を生きた女性アーティストにとって、女の状況を反映させること抜きに自分の表現はあり得なかったということなのだろう。

彼女らの作り出した斬新で残酷、デリケートで過激、美しくてグロテスクな造形の数々に、20世紀の女たちの粗い息吹が伝わる。フェミニズムの運動が、女性学という形で学問の世界に収束してしまった20世紀後期になっても女性アーティストたちはこんなにも熱く、こんなにもビビッドに自分たちを表現していたのだ。その発見に胸が熱くなった。

近代美術館内は、夏休みのせいもありフランスの中学生や高校生の団体も多くいた。はたして21世紀の少女少年たちはこの挑発的な先人たちのアートをどのように見たのだろうか。